小説

『二十年後、変わらないもの』ウダ・タマキ【「20」にまつわる物語】

 タイムカプセルを掘り起こすのは二十年後の約束だったが、康太がこっちへ帰って来る時に会えると思っていたので、涙を見せることなく別れることができた。
 しかし、それ以来、康太と会うことはなかった。母さんから聞いた話によると、康太の両親が離婚して、康太は母親に引き取られたそうだ。お隣は父方の実家なので、康太が村に来る機会が無くなったというわけだ。

 二〇一七年十月一日

 あれから二十年。
 約束の場所は、この吊り橋だった。
 何も変わらない風景の中、ただ、大人になった僕だけが変わった気がした。
 僕は高校を卒業後、東京の大学に進学した。田舎に帰ってきても仕事が無いので、そのまま東京で就職した。最近は、慌ただしい日々を過ごし、帰省する機会も減っている。
 腕時計を見ると、五時を回ったところだ。約束の時間が過ぎた。
「来るわけないか……」
 僕は、一人吊り橋を渡り始めた。ゆらゆらと揺れる吊り橋の眼下には、穏やかな城田川の流れ。子供の頃は平気だったが、久しぶりに渡る吊り橋に足が震えた。

 当時の記憶を辿り、蒲鉾の板を探した。しかし、当然ながらいくら探せど、そんなものは見付からず、僕は途方に暮れた。
「しゃあないな」
 最後に勇壮な滝を眺めて帰ることにした。夕陽に輝く滝を康太に見せたかった。だから、秋の夕刻を約束の時間にしたのだった。

 久しぶりに夕照の滝を見ることができて、良しとしよう。

 そう言い聞かせ、来た道を戻ろうと振り返った時、一人の男性の姿が視界に入った。
「あっ……」
「克樹?……だよな?」
「康太?……」
 一目見た瞬間に康太と分かるほど、当時の面影がはっきりと残っていた。
 僕達は共に歩み寄り、力一杯の握手をした。
「変わらないな、康太」
「克樹も。すぐ分かったよ」
「よく覚えてたな、まさか来てくれるとは。帰ろうとしてたところや」
「ごめん、少し遅れたな」
「いいよ。だけど、タイムカプセル……目印が無くなって……どこに埋めたか分からないんだよな……」
 康太は、あの時と変わらない笑顔でニコリと笑い、「こっち来て」と、手招きをして歩き出すと、少し森に入った所で立ち止まった。

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