それでも、時折、下を覗き「うわぁ、高い」と怯えたが「やっぱり根性なしやなぁ」などと冗談を言って笑い合えるくらいの余裕はあった。
「なあ、康太。空を見てみ。今日はすごい青空や」
康太は、ゆっくりと空を見上げた。
「うん、綺麗だね」
「よし、その調子で下を見ずに行こう!」
僕達は康太のペースに合わせてゆっくりと歩き、とうとう吊り橋を渡りきった。
「よく頑張ったな!」
「全然、余裕だったよ!」
「よく言うよ!」
暑さによる汗か、冷や汗か、康太のシャツは絞れそうなほど濡れていた。
山道を十分ほど歩くと、水面を叩きつける水の音が聞こえ始めた。
「もうちょっとな!」
「うん」
木々のトンネルとなった山道の先に、明るく開けた場所が見えてきた。
「よし、競争!」と、康太が走り出した。
「待て!」
夕照の滝は、夕陽を受けるとまるで黄金色に輝くので、その名前が付けられたと父さんから教えられた。
木々のトンネルを抜けると、目の前に滝が現れた。
「すごいね、滝を見たの初めてかも」
「すごいだろ、東京にもなかなか無いやろな」
「確かに、東京には無いね」
僕達はしばらくの間、その勇壮な姿を眺めた。
「さぁ、遅くなるといけないから埋めよ!」
「よし!」
僕達はすぐ近くの森に穴を掘り、そこにタイムカプセルを埋めた。目印に蒲鉾の板に『タイムカプセル』と書いて突き刺したが、今思うとそれは二十年の月日に耐え得るものではなかった。それくらい、子供の頃の僕には、二十年という時間の感覚が理解できていなかったのだろう。
そして、僕達は笑顔で別れた。