小説

『二十年後、変わらないもの』ウダ・タマキ【「20」にまつわる物語】

「吊り橋、渡るの、怖いやろ?」
「大丈夫……その方が絶対に忘れないから。頑張る」
「ホンマかなぁ?」
 康太は、イタズラに笑う僕の右肩に軽くパンチをした。
「絶対に渡ってやるから!」
 笑ってはいたが、康太の目は力強かった。

「珍しく勉強?」
 部屋にこもって机に向かう僕に、母さんが皮肉のように言った。
「忙しいから、邪魔しないで」
「勉強熱心なことやね」
 僕は書いては消して、また書いては消して……それを幾度となく繰り返した。
タイムカプセルを掘り起こすのは二十年後と決め、その時のお互いへの手紙を書くことにしたのだった。

 手紙を書き上げるのに、夜遅くまでかかった。それでも朝になると自然と目覚めた。目覚めて、まず考えたのは、今日で康太が居なくなるということだった。ほんの一ヶ月前には、僕の世界に存在しなかった康太が突如現れ、そしていなくなってしまう。
「康太君、帰っちゃうんやな。寂しくなるな」
「また、会えるから大丈夫やし」
「うんうん、そやな」
 強がる僕の頭を、母さんは優しく撫でた。
 僕は涙を流しそうだったので、ご飯を勢いよくかき込み、茶碗で顔を覆うように隠した。

 その日は雲ひとつ無い青空が広がっていた。青空と木々の緑を背景にした赤い吊り橋は、より鮮やかさが映えた。

「本当に、大丈夫?無理しなや」
「大丈夫……」
 康太は、右手に持った手紙の入ったビンを力強く握りしめた。そして、僕に続いてゆっくりと歩き始めた。
 一歩ずつ、ゆっくりと、背中を丸めながら、慎重に……
 そして、しばらくすると、少しずつ背筋が伸び始め、歩幅が広がり、表情も和らぎ始めた。
「そう、その調子!」
「う、うん、大丈夫そう」

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