小説

『二十年後、変わらないもの』ウダ・タマキ【「20」にまつわる物語】

「母さん、康太君と遊びたいから一緒に来てよ」
 次の日、朝食の準備をしている母さんに声を掛けたが、「何言ってんの。一人で行ってきなさいよ。朝ご飯食べてからよ」と、一蹴された。
「はぁい」
「良かったねぇ、新しい友達ができて」
「けど、緊張する」
「大丈夫よ、最初だけよ」
「仲良くなれたらいいけどなぁ」
 僕はどう声を掛けるか、何をして遊ぶか、どんなことを聞くか、いろいろなことを考えていた。

 これと言った観光資源の無いこの村は、財源も乏しく手付かずの自然が多く残っている。それがハイキングや写真を趣味とする人々にとっては魅力的らしく、雪に閉ざされる冬以外の季節は、多くの観光客が訪れるのだった。
 外の世界と遮断された、山深く辺鄙なこの村にやって来る人達は、まるで遠い異国からやって来たかのように、幼い僕の目には映った。県外ナンバーの車を見ると、いつもその地に思いを馳せていた。

 急いで朝食を終えると、玄関に置かれた虫取りアミを握りしめ「行ってきます!」と、家を飛び出した。
 中村さんの家とは建物同士は隣接しているのだが、間には垣根があるので庭を通って一度道路へ出る必要があった。田舎は敷地が広いので、母屋はすぐ隣でも、うちの玄関から中村さんの玄関に辿り着くまでの道のりは遠い。
 玄関を開けて「こんにちは!」と呼ぶと、「はぁい!」と、奥の方からおばあちゃんの声が聞こえた。
「おばあちゃん、康太君いる?遊びに来た」
「あら、ちょっと待ってね」
 おばあちゃんが「康太!克樹君が遊びに来たよ」と呼ぶと、柱に隠れて覗き見ていた康太の顔が少しずつ現れ、そして、こちらに向かって勢いよく飛び出して来るのだった。
「あら、そんなとこに居たのかい。遊びに行っておいで」
「クワガタ採りに行こ!」
 僕が虫捕り網を指差すと、康太はコクリと頷いて笑った。
「僕、康太。よろしく」
「克樹」
 僕は手を差し出して、握手をした。心のどこかで都会の子に負けたくない、という思いがあったので、少し大人ぶって慣れない握手で挨拶をしてみた。

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