小説

『二十年後、変わらないもの』ウダ・タマキ【「20」にまつわる物語】

「滝の端にある岩の角から、真っ直ぐに進んで、二本目の木と交わる場所、つまり、この下に埋めたんだよ」
「よく覚えてるな!すげぇ!」
「蒲鉾の板じゃ不安だったから、ちゃんと測ってたんだよ」
「さすがやな、ハハッ」
 準備してきたスコップを使い、僕達は土を掘った。小学生が掘ったとは思えない深さまで掘り返したところで、漸くスコップの先が何かに触れた。僕達は顔を見合わせ、丁寧にその周囲の土を掻き分けた。
 厳重に何重にもテープが巻かれたビニール袋。その中には煎餅の大きな四角の缶があり、さらにその中にはビンが二本入っていた。それぞれのビンには、大きな字で『康太』と『克樹』と書かれている。
「懐かしいな、確かに書いたね、名前」
「これが俺の書いた手紙だから、これを康太が読んで、俺がそれを読めばいいんだな」
「ああ」
 妙に恥ずかしい気持ちだったが、僕は康太からビンを受け取ると、手紙を取り出した。
 僕達は、滝の近くの岩に腰掛けて手紙を読み始めた。
 一言も話さず、ただ黙って二十年前のメッセージを一文字ずつ心に留めた。
僕は、読み終えると一つ大きく深呼吸をして空を見上げた。空は赤く染まり始めていた。
 康太もちょうど読み終えたようで、僕の方を見て照れ臭そうに笑っている。
「俺、あれから東京帰って、イジメてきた奴をぶっ飛ばしてやったんだ。克樹は相手にするな、って言ってくれたけど、やっぱり負けたくなかったし、遠くで克樹が応援してくれていると思ったら、勇気が湧いてさ。それから、イジメは無くなった」
「そっか」
「手紙、ありがとう。今、ちょうど仕事で悩んでて、この先どうしようかな、とか考えてたけど……なんか少し吹っ切れた気がする」
「俺、そんな良いこと書いてたんやな」
「ああ。克樹は、どうだった?」
「康太は、俺のこと、よく分かってるよ。たった数日でさ。すごいよ。俺も同じだ。日々の慌ただしい生活に追われて、疲労困憊だったけど……それを見越したかのような手紙だった」
「そっか。良かった」
 僕達は流れ落ちる滝を眺めた。
「変わらないな、ここは」
「ああ、この二十年、そして、これから二十年も変わらないよ、きっと」
「また、二十年後にも、ここで会いたいな」
「また、タイムカプセルでも埋めるか?」
「そうだな、今度は酒でも入れて、二十年後に飲むか?」
「いいね、それ!」

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