小説

『ニジュウアゴ』室市雅則【「20」にまつわる物語】

 やはり一人で篭った暮らしをしているから本格的にあちらの方があちらになってしまったのかなと不安を感じながら、指を突っ込む作業を進めていきました。
 そして、ついに笑い声が聞こえました。
 嬉しくなって、犬が尻尾を振るみたいに指を動かすと笑い声がやはり聞こえましたが、何も出てきません。
 さらに指を喉元の方に進めると、その笑い声は大きくなってきます。
 残り二つとなったところで、爆笑が轟き、何かが隙間から落ちました。
 笑い声が足元から届きます。
 そちらを見ると小さな人形が腹をよじって笑い転げております。
 驚いて言葉も出せず、じっとその人形を見ていますと、いきなり笑うのをやめて立ち上がり、彼を指さしました。
 「くすぐりは反則だって」
 人形が言葉を話しました。
 彼は固まってしまいました。
 「あ、ごめん、ごめん。初めまして。俺、小人。まあちょっと太っているけど」
 小太りの小人は自己紹介をしたのですが、彼は何と返せば良いのか分かりませんでした。
 「驚くよね。そりゃ。普段はさ、人間の前に姿を現しちゃいけないだけどさ、俺ものっぴきならないワケがあってさ。住むところ探していたんだけど、そうしたら君のアゴに巡り合ったワケ。暖かいし、柔らかいし、ご飯もあるし、コーラも飲めるしで、こりゃ良いやってんでお世話になっていました」
 小人はお辞儀をしました。
 「あーあ」
 小人は何かを聞いて欲しそうな顔をして大きく伸びをしました。
 彼は恐る恐る尋ねました。
 「何か?」
 「いや、別に」
 「そうですか」
 「あんたコミュニケーション能力無いだろ」
 小人が彼を呆れたように見上げています。
 「こんな時は、『遠慮しないで言ってよ』とか言うでしょ。普通」
 「はあ」
 「『はあ』じゃなくてさ」
 「え、遠慮しないで言ってよ」
 彼はぎこちなく言いました。
 小人は苦笑いを浮かべました。
 「下手くそ。でもまあ良いや。いや、俺もさ、家を失ったわけで、その原因の一端は君にもあるって言うかさ」

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