小説

『ニジュウアゴ』室市雅則【「20」にまつわる物語】

 原因が分かった所で、二番目に再び指を突っ込んで擦ると砂糖の塊がどっさり剥がれ落ちて、彼のアゴは十八アゴになりました。

 次は何が出てくるのだろうと彼は愉快な気持ちになりました。
 ウキウキで三番目に指を突っ込みました。
 やはり何かが張り付いていたので、指で擦ると切手のようなものが舞い落ちて、それを取ろうと屈むと彼のアゴが十七アゴになりました。
 落下したそれは彼が子供の頃に家族で撮ったプリクラでした。
 普通のアゴをした小学生の彼と元気であった両親が一枚の写真シールに仲良くいます。
 三人とも笑顔で楽しそうで輝いています。
 プリクラは彼のアゴの間がちょうど良い保管環境を提供したらしく、とても綺麗でした。
 それが逆に彼の胸に刺さりました。
 見ていれられなくて、そのシールを裏にして洗面台に置きました。

 なんだかモヤモヤとしてしまって、暴挙に出ました。
 両手を広げ、十指を一気に突っ込みました。
 アゴの下で手を縦に並べて姿はまるでナルシズムに溢れたモデルのポーズでしたが、実物は鈍い忍者の構えのようでした。
 中身を探ろうと突っ込んだ指先を動かしましたが、何も出てきません。
 あれ、もう何にも出てこないのかなと思いながら、再び動かします。
 「くすくすくす」
 彼の耳に小さなが笑い声が聞こえました。
 顎に十指を突っ込んだまま左右を見渡しましたが、誰もいません。
 もしかして、自分でも気付かぬうちに独り言でも呟いたのかしらと考えますが、そこまで耄碌はしていません。
 空耳かと改めて指を動かします。
 「けらけらけら」
 はっきりと笑い声が聞こえました。
 そして、その出どころは彼の顎の間からです。
 昔懐かしい笑い袋でも挟まっているのかしらなんてことはないので、彼は試しに手前から指を突っ込んでいきました。
 一つ目、二つ目、三つ目と確認をしていきましたが、笑い声は聞こえてきませんでした。

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