小説

『ニジュウアゴ』室市雅則【「20」にまつわる物語】

 「僕のせいですか?勝手に住んだのに」
 「勝手に太ったのはそっちだろ」
 「理由になっていませんよ」
 小人は床に座りました。
 「変なところ、鋭いよな。ならズバリ言うわ。立退くにあたって、俺も旅に出なくちゃいけない。だから、援助してくれ」
 彼もそれを聞いて床にあぐらをかくと、その振動で小人がひっくり返りました。
 「ちょっとは優しくしてくれよ」
 「あ、すみません。で、援助って何ですか?」
 小人は不敵な笑みを浮かべながら、親指と人差し指を合わせて輪を作りました。
 「これだよ。これ」
 彼も指を合わせて輪を作りました。
 「金ならありませんよ」
 小人は大きく笑いました。
 「金?」
 小人は自分で作った親指と人差し指の輪を眺めました。
 「あんたの世界の金もらっても仕方ねーだろ。この姿で『あら、このサンマを一匹ちょうだいな』って買い物できるかっつーの」
 「あ、すみません。じゃあ、これは」
 自分の輪を小人に見せました。
 「これはウチらの方じゃ、米だよ。米。遠くに行くから食料くれってんだよ」
 「ああ、それくらいなら」
 「俺たちは一日一粒食べれば十分だから、そうだな、二十粒援助してくれるか?二十日もあれば見つかるだろ。新しいところ。多分」
 彼は米びつから米を二十粒取り出し、タオルを小さく切って袋を作り、小人が背負えるように包んであげました。
 「指先、器用じゃねえか。商売できんじゃね?」
 「はあ、ありがとうございます。おかずは?」
 「それに優しいときた。そうだな、塩をくれ。これも二十粒」
 「はいはい」
 彼は器用に塩を二十粒だけ集めて、米の布袋に入れてあげました。
 「サンキュー。それじゃあと別れるのもあれだから、何かあるか?願い事」
 「いや、いいですよ。大丈夫」

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