小説

『20年前の君に』霧赤忍【「20」にまつわる物語】

 無視をしているが俺は亜沙美からの連絡を心待ちにしていた。ポケベルの文字を見ながら俺はきっとニヤついていたと思う。
 でも連絡をしなかった。
 理由は自分の気持ちに気づいてしまったからだ。
 俺は亜沙美が好きだけど、
 同じように、オバ美のことも好きになっていたことに……。
 俺はどうしたらいいかわからなかった。

 ある日、家の郵便受けに亜沙美からの封筒が入っていた。
 俺は急いで部屋に入りドキドキしながら手で封を切った。
 便箋と写真が入っていた。
「っつ!……」
 写真に写っていたのは……、
 百万ドルの夜景をバックに、
 仏頂面でピースサインをする俺と、
 満面の笑顔の……亜沙美だった。
(オバ美は亜沙美……)
 写真にポタポタと水の粒が落ちてきて、自分が泣いていることを知覚した。
 ぼやけた視界が捉えた写真の俺は幸せそうな表情に見えた。
 そのとき俺の亜沙美に対する想いを確信した。
 気づいたら亜沙美のもとへ走り出していた。
 亜沙美の自宅目前までたどり着くと、俺の視界に亜沙美の後ろ姿が入った。
「亜沙美―!」
 俺はありったけの力を声に込めて叫んだ。
 振り向いた亜沙美が俺を見て微笑んだ。
「亜沙美! 俺と結婚してくれ!」

 プロポーズから二十年が過ぎた。
 俺は亜沙美と結婚して夫婦になった。子供も一人授かった。
 ちなみにあの日のプロポーズは断られた。
「さんざん無視をされて、いきなり結婚と言われても困るのだけど」
 そう言った亜沙美の目には涙が浮かんでいて嬉しそうでもあったが。
 結婚は断られたが、結婚を前提にした交際を続けた。デートには交代でオバ美が姿をあらわした。月日の経過とともに気づいたが、亜沙美とオバ美の入れ替わる基準は時間が関係していた。
 付き合い始めの頃、俺と亜沙美は毎日会うことはなかった。一週間や三日おきくらいでデートをしていた。プロポーズから数カ月たって温泉旅行のやり直しを二人でした。そのさい現れたのは亜沙美で、二泊したが二日とも亜沙美だった。
 そのことが気になった俺は、その翌日、翌々日と続けて亜沙美と会ってみた。現れたのはいずれも亜沙美だった。
 これはもしや! と思い次の日はわざと会わず、一日空けて会ってみた。現れたのはオバ美だった。
 それから試行錯誤した結果、二十四時間会わずにいると入れ替わることがわかった。
 なぜ入れ替わるかは、まったくわからなかった。

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