小説

『20年前の君に』霧赤忍【「20」にまつわる物語】

 シリアスな問題だけに混乱させる可能性を考えて、直接訊くことはしなかったが、亜沙美にその自覚はないようだし、亜沙美の家族や知り合いも認識しているような気配は感じられなかった。
 おそらく俺だけがそう見えていたのだと思う。それと亜沙美との初デートで逃げ出した男も可能性はある。
 頭を働かせてもわからなかったので、超常現象などの不思議な体験とはそんなものだろうと思うことにした。
 二十四時間のからくりに気づいてからは、亜沙美だけと会うことも可能だったが、それはしなかった。オバ美は未来の亜沙美だから同じくらい会いたかったからだ。
 その後も俺たちは関係を育み、最初のプロポーズから五年後に結婚した。
 亜沙美は年を追うごとにオバ美になっていった。
 そして初めて亜沙美と会った日から二十年が過ぎ、先日四十歳になった亜沙美はパーフェクトにオバ美になっていた。家族三人で誕生日会をしたときに完全に一致していると気づいた。
 オバ美は二十年後の亜沙美だったのか、と思うと感慨が湧き、感謝の気持ちでいっぱいになった。オバ美が現れたことで最初は混乱したが、オバ美に恋をしたことで、本気で亜沙美と一生を添い遂げたいのだと確信することができた。
 誕生日会で息子が、「お母さん、おめでとう」と言っていたが、感極まった俺は続けて、「オバ美、ありがとう」と言ってしまった。
 亜沙美と息子が目を丸くして俺を見ていたが話を続けた。
「二十年前の君に言ったんだ」
 俺は想いがこみ上げ目頭を押さえたが、ちらりと目に入った亜沙美と息子は首を傾げていた。

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