そこには祖母の文字で謝罪の言葉が延々と綴られていた。
あの時は被害者だった祖母が、それでも謝り続けなければならなかった事実を、現実を赤ずきんは知った。
祖母の遺体を運ぶ際、祖母の家から出てきた赤ずきんたちに石が投げつけられた。
石と共に、ご丁寧に祖母の死を口汚くののしる言葉がおまけのように付け足されていた。
その石は、一つではなく幾つも降り注いでくる。
その内の一つが赤ずきんの頭に直撃し、彼女の赤いずきんをより赤くした。
それでも何も言わず、ただこちらをチラチラとうかがう自分の母親の視線を赤ずきんは見た。
その視線に込められた感情を、赤ずきんは悟る。
彼女の中で何かが切り替わったのは多分この時だろう。
ただただ彼女の中で溜まっていただけだった負荷が、許容量を超えたのかも知れない。
切り替わった赤ずきんは決意した。
未だに姿も見せないオオカミの群れに、事情を聞きに行くことを彼女は決心したのだ。
元々、オオカミに対してなんの警戒心を持っていなかった彼女である。
一度腹に収まったくらいで、そのある種、呑気な思考は直らなかったらしい。
彼女はまず狩人の家に行った。
万が一の時、群れのオオカミ達から自分の身を守ってもらおうと考えたのだ。
赤ずきんが狩人の家に入ると、室内には据えたようなきつい匂いが充満し、彼女の鼻をさいなんだ。
汚れ散らかりきったその家の奥で、狩人はベッドの上で丸くなっていた。
彼が寝ているのではないことは、家に入った赤ずきんを両目でしっかりと見ていることからうかがえる。
赤ずきんは狩人に自分の試みを話した。
これからオオカミの群れに向かい、その真意を探ろう、というその計画を。
そして、それに同行して欲しい旨を狩人に伝える。
それを聞いても、狩人はピクリともしない。
ぼうぼうに伸びきった前髪の間から、ただ濁った瞳を赤ずきんに向けるのみだ。
赤ずきんは説得を続けたが、狩人はいつまでも微動だにしない。
ふと、彼の酷く濃い口ひげの間から声が漏れていることを赤ずきんは気づいた。
耳を彼の口に近づけると、臭気共に、そこから聞こえてきたのは赤ずきんに対する恨みの声だった。
ただあの状況を招いた赤ずきんを非難し、今の自分の不幸を赤ずきんのせいにする、そんな恨み節を狩人は延々、聞こえないほどの小さな声で呟き続けていた。