小説

『The birth of the red empress』田中二三-(『赤ずきん』)

 今や赤ずきんも狩人も近隣住人の憎む対象、厄介の種、いくらでもこき下ろして良い不満のはけ口扱いだ。
 その状況で、何人が耐えられるというのだろうか。
 少なくとも、ただ一人、その状況に不満を抱き続け、負荷を溜め続けていた者がいた。
 人々の不満を受けていた彼女は、ただ見ていた。
 村の住人の怯え、動揺し、ただただ恐怖に怯えるその姿。
 自分では何一つ行動せず、ただ安心と安全を祈願するのみの怠け者。
 害を防ぐでもなく、立ち向かうでもなく、ただ身を縮めてやり過ごそうとする卑怯者。
 彼女にはその人々がそう見えた。
 そう、その彼女こそが、当の事件を引き起こした張本人、『赤ずきん』その人である。
 彼女は腹を立てていた。
 なぜなら、村の住人たちは自分たちが安全に暮らすためなら、赤ずきんも自分の祖母も死んでも良かった、などと堂々と言ってくるのである。
 それも彼ら自身は赤ずきんからしてみれば、ただ怠けているようにしか見えない卑怯者達だ。
 こんな奴らのために自分が殺されても良かった、などと思われるのは心外だった。
 不愉快極まりない、と彼女は感じた。
 日に日に彼女の不満は積もり、それでもただ人々からの非難に耐える毎日が続いた。
 人々の不満は未だに収まらない。
 ついに非難の対象は、赤ずきんの祖母にまで及んだ。
 ただでさえ歩くのもやっとな年寄りなのに、祖母が道を歩けば杖を奪われればそれを遠くまで投げ捨てられ、石をぶつけられ、身動きの取れない彼女に罵声と罵倒が絶え間なく降り注いだ。
 家の窓は何度直しても割られ、壁には大きな傷や非難の言葉を刻まれた。
 そんな事が毎日のように繰り返され、赤ずきんの祖母はみるみる衰弱していった。
 さすがに人々に対して抗議をしようと赤ずきんは祖母に訴えたが、祖母はただ黙って首を横に振った。
 赤ずきんの祖母は食事が喉を通らなくなり、水を飲むことさえやっとになってしまう。
 そして祖母は口を開けば、人々に迷惑を掛けて申し訳ない、とただただ繰り返す。
 赤ずきんはそんな祖母を看病し、人々の視線から守った。
 ある日、祖母はぽっくりと前触れもなく他界した。
 赤ずきんが自分の母親と二人して呆然とした顔で遺品を整理していると、かつて祖母が使っていたベッド脇の引き出しから、一つのメモ書きを見つけ出す。

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