小説

『プラモ捨て山』中杉誠志(『姥捨て山』)

 私はねんごろに礼をいって、すっかり慣れ親しんだ部屋を出、ダンナの待つ家に帰ることにした。

「黙って二ヶ月も家を空けるなんてどうかしてる!」
 玄関で私を出迎えたダンナは、いきなり怒声を挙げた。ダンナが怒鳴るところを見たのは初めてだ。理はダンナにある。私は素直に謝った。
「ごめんなさい。でも、浮気とかじゃないから安心して。じつは、あなたがプラモにばかり熱中するものだから、おもしろくなくて山に捨てに行ったのよ」
「プラモを……?」
 ダンナは、いまやっと気がついたような顔で私の手元の袋を見た。私のことが心配で、自分の趣味のプラモにまで気が回っていなかったのかもしれない。そう、ダンナはやさしい男なのだ。
「でもね、まあ、なんやかんやあって、私もプラモ作りに目覚めたのよ。あるおばあさんからプラモ作りを教わってね。そしたら、あなたは素組みしかしない素人だってわかったから、これから私が指導してあげるわね」
 私がゴミ袋ごと大切なプラモたちを差し出すと、ダンナは顔を赤くして頭をかいた。
 それからというもの、私たちふたりは夫婦一緒にどっぷりプラモ製作にのめり込んだ。家にはプラモ捨て山にあった例の部屋を参考に、プラモ製作用の作業部屋を作った。数年後には、夫婦揃ってさまざまなプラモコンテストに参加してはさまざまな賞を受けるようになり、私はいまでは主婦兼モデラーとして、月刊ホビー雑誌でプラモに関するコラムを書いている。

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