小説

『プラモ捨て山』中杉誠志(『姥捨て山』)

「はあ? 嫌よ。なんで私がプラモなんか作らなきゃいけないのよ」
「ほーん。まあ、それならそれでええぞ。プラモをひとつ作れば、飯を食わしてやるが、作らなければ餓死するだけじゃ。作ったとしても出来が悪けりゃ豚の餌じゃがな。ひっひっひっ。捨てられたプラモたちの祟りを、思い知るがいい!」
 あまりの事態に愕然としながら、しかしプラモを作らなければ餓死してしまうのだからしかたがない。プラモなんて説明書通りにパーツを組み立てるだけの立体パズルみたいなものだろう。なにが楽しいのかわからないが、餓死するよりはましだ。
 こうして私は、プラモを作り始めた。部屋には大量のプラモがあったが、それらはダンナのものよりもだいぶ古い、黎明期のものらしかった。マニアなら垂涎ものかもしれないが、プラモに興味のない私にはプラスチックの塊でしかない。興味のないことをやらされるという苦行にうんざりしながら、説明書とにらめっこしつつ、部屋にあったハサミでパーツを切り分け、組み立てる。
 あーつまんねー、あーつまんねーと思いながら、しかし、最初の一体が完成したときには、ある種の喜びと達成感を感じた。それまでプラスチックの塊でしかなかったものが、二本の足で立つ人型ロボットになったのだ。もっとも、それは、部品をただ組み立てただけの、いわゆる『素組み』だったので、最初に出た飯は豚の餌だった。こんなまずいものを食わされては一ヶ月も身が持たない。
 さいわい、その部屋にはホビー雑誌やプラモ製作に関する本が入門編から上級者用のものまであったので、それらを参考にしながら、出来のいいプラモになるよう努力した。
 パーツはハサミでなくニッパーで切り取り、切り口には紙やすりをかける、などのプラモ製作の初歩の初歩から、パーツとパーツのあいだに接着剤を塗ってから組み合わせ、パーツ同士の継ぎ目を消す『目消し』という一歩進んだ技術を覚えた。
 そうこうしているうちにプラモの完成度は上がり、それに応じてその日にありつける食事も豚の餌から松屋の牛めし、ラーメン二郎などにランクアップして、ことさら出来のいいものが完成した日には叙々苑の焼肉弁当まで出るようになった。こうなるとやりがいがあるし、楽しくもなる。私は組み立てだけでなく塗装の技術も覚え、それだけでは物足りないので、市販のシールや拡張パーツ、またはプラ板を加工してデコレーションパーツを自作し、それらを素体に追加し情報量を増やすなど、中級者から上級者用のプラモテクを習得した。もう毎日が楽しい。
 そうして、一ヶ月が経った。
 ある朝目覚めると、私はスギの巨木の根元にいた。
「え……? プラモ、私のプラモは?」
 寝る寸前まで作っていて、仕上げは明日でいいや、と思っていた作りかけのプラモを第一に心配する。もはやプラモに憑かれている私だった。四つのゴミ袋を提げた、トリコロールカラーの魔女が、そんな私を見て鼻を鳴らした。

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