小説

『プラモ捨て山』中杉誠志(『姥捨て山』)

「ふん。プラモの祟りを思い知ったようじゃな。よかろう、そろそろ家に帰してやろう。二度とプラモを捨てに来るではないぞ。ツイッターでも拡散しとけ。ほれ、これがおぬしのプラモじゃ」
 そういって、ゴミ袋を私のほうに差し出す。
 そうだ、そういえば私は、ここにダンナのプラモを捨てに来たのだった。すっかり忘れていた。しかし、プラモは飯のタネ、それも叙々苑の焼肉弁当のタネだ。捨てるなんてとんでもない。
 ゴミ袋を受け取って、中身を確認する。プラモのことを何も知らなかったころの私が雑多に詰め込んだせいで、壊れているものがないか心配になったのだ。が、ダンナが大事に保管していた箱のなかにそれぞれ収まっていたため、びっくりするような損傷をしているものはない。
 それより気になるのは、プラモの出来だ。なんだこれは。あらためて見ると、ダンナのプラモはほとんど素組みしかしていない。
「……あの野郎、プラモ好きとかいいつつ、てんで素人じゃねえか。なっちゃいねえや」
 われ知らず毒づき、それから魔女を見て提案した。
「ねえ、ちょっとまたあの作業部屋借りていい? これ作り直すから」
「ひょえ?」
「こんなちゃちなプラモが家にあったら、また捨てに来ちゃうからさ、私が作り直そうと思って。いまのテクで作り直せば、家宝にすらできそう」
「お、おう……すごい自信じゃの。よかろう。ならば、やってみよ」
 魔女はやや困惑しながら、私の提案を飲んでくれた。例のスギ花粉が私を包み込み、気がつくといつもの作業部屋。最初に連れてこられたときの、刑務所のようだという悪い印象はすでにない。家にほしいくらいだ。やっぱりこっちのほうが落ち着くわぁ。
 そうして私は、プラモ製作に必要な機材のすべて揃った部屋のなかで、さらに一ヶ月暮らして、ダンナのプラモと向き合い続けた。
 完成品の改修と積みプラの消化を終えたのが、ちょうど一ヶ月後。
「のう、おぬし……そろそろ帰ったほうがよいのではないか? おぬしの夫も、さぞ心配しておろう」
 魔女が気まずそうにいう。そういえば、毎日完成するプラモの出来が良すぎるせいで、近ごろ私は、毎日叙々苑の焼肉弁当を食べている。これが続けば魔女も破産してしまうだろう。本当なら部屋のレンタル代を払うべきところなのに、無料で住まわせてもらってごちそうまでいただいていた。悪いことしちまったなあ。
「そうね。ありがとう。お世話になりました」

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