小説

『隼人とヒトリ』林凛

部屋の中には同じ経済学部で一番仲が良かった槙野隼人がいた。
「何でここに……。」
「まあまあ、座れよ。お前の好きな焼酎買ってきたからさ。」
隼人に会うのは大学を卒業して以来だった。ましてやここで酒を飲むのは10年ぶりくらいか。
隼人とはよくここで酒を飲み、テレビゲームをし、どうでもいい話をたくさんした。本当に仲が良くて週に一回は隼人が遊びに来ていた。
「懐かしいな。こうやって二人で酒飲むの。」
「確かに。大学の時はしょっちゅう一緒に飲んでたのにな。」
「どっちもそれなりに飲めるから朝まで飲み明かして、二人とも二日酔いになって青い顔して学校で再会したときもあったよな。」
「あったあった。あの時話もめちゃくちゃ盛り上がったんだよな。何の話してたっけ?」
「うーん……覚えてないな。でも二人とも覚えてないってことはどうでもいい会話だったんだろうよ。というか俺たち実のある会話したことあるか?」
「ないな。いつも女とゲームとあと下ネタ?」
「だよな。お前いつも女の脚ばっかり追いかけてたよな。」
「いやいや、女の脚には語りつくせない魅力があってだな。ただ細いだけじゃなくてメリハリのある細さっていうの?太ももはちょっとむっちりしていて、足首がキュッとなってて……」
「お前まだそんなこと言ってんの。社会人何年目だよ。」
「いやいや、男はいつまでもガキだろ?そういうお前も俺に刺激されて脚の魅力に気づいたくせに。」
「確かにな。お前の話聞いてから脚に目が行くようになった。」
「だろ?やっぱり女の脚は無敵だわ。」
久しぶりに会ってもすぐあの頃と同じように会話ができる。やっぱり隼人は変わってない。
こういうやつのことを親友っていうんだろうな。
「あっ、したことあったわ、真面目な話。」
「真面目な話?」
「3年の夏休みにいい加減就職考えないとなっていう話したじゃん。」
「あーしたした。あれは確かに超真面目に話したな。酒も飲まずに。」
あの日のことは今でも覚えている。そして隼人と話しながらあえて避けていた話題だ。

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