小説

『主婦とスキャンティ』緋川小夏(『シンデレラ』)

 自宅の玄関ドアを開けると家の中は暗く、遥香は出かけていて留守だった。きっと口うるさい母親が出かけているうちに、と羽を伸ばしているのだろう。今日は自分も散々、遊んできたのだから文句も言えない。
 まずは荷物を片付けようとボストンバックの中身を整理していると、ビンゴ大会の参加賞としてもらった小さな包みが出てきた。
「そうだ、これ。何が入っているのかしら」
 恐る恐る包装紙を剥ぐと黒い小箱が出てきた。そっと蓋を開けてみる。中に入っていたのは、一輪の白い花だった。
「え……お花?」
 不思議に思いながら手に取ってみた。それは造花でもハンカチでもなく、シルク製の女性用パンツだった。しかも横をリボンで結ぶタイプの小さなものだったので、レースやフリルが折り重なり、まるで箱の中に咲いた清楚な白い花のように見えたのだ。
 雅子はジュンにもらった意外なプレゼントを前にしばし茫然とし、やがてクスクスと笑い出してしまった。
 ひとしきり笑うと雅子は立ち上がり、着ていた服を全て脱いだ。そして鏡の前で花びらのようなスキャンティに、そっと足を通した。嬉しさと恥ずかしさで胸がきゅんと締め付けられる。それは久しぶりに味わう甘酸っぱいときめきだった。
「……なかなかいいじゃない」
 いろんなモノが盛大にはみ出していたけれど、それでも構わないと雅子は思った。

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