「頑張れ!」
二人並んで息を飲んだ。自分の胸が高鳴り続ける。でもゲームのスリルだけじゃない。もっと近くにいる人に、私はドキドキし始めている。
「あー!」
「惜しい!」
アームにネコが引っかかったものの、浮き上がっていく衝撃でポロッと外れてしまった。二人同時に「う~ん」と唸る。玉西さんはそれから2回続けて挑戦したが、とれる気配は一向になかった。
「真っ向勝負はやめて、ネコをアームで追い出す方法に変えます」
玉西さんはネコとクレーンの位置を指で計測すると、再び小銭を投入して操作を始めた。理系の人はこういう計算がやはり得意らしく、今度はアームの先にネコが当たって、取り出し口の方に少し動かすことが出来た。同じ動きを十回以上してようやく、あと少しという所まで来た。とその時、
「ね-、あの二人長すぎじゃない?」
「まだー?足痛いんだけど」
わざと私たちに聞こえるボリュームで、さっきの女子たちが声を上げた。
「野田さん、どうしましょう?」
玉西さんが顔を赤らめて聞いてきた。
「気にしちゃダメ。ここまで来て諦めるなんて口惜しいじゃない」
「そうですけど、ボタンを押しながらでは正確な計測が難しくて」
「じゃあ、私が代わりに操作します。玉西さんはタイミングを横で指示してください」
私は財布から小銭を出して台に入れた。
「そこまでしてもらわなくても」
「だって、あそこにいる奴らには絶対とられたくないもん」
「……そうですね。僕も同じです」
ここに来て初めて意見が一致した。思わず二人で笑い合うと、玉西さんは私を真っ直ぐに見つめた。彼の瞳が私の心をガッチリとつかむ。私はうなずくと「1」のボタンを押した。
「まだです。まだ……ストップ!」
玉西さんの声が私の耳朶を打つ。低くてしっかりした、落ち着きのある声。
「次のボタンいっていいですか?」
「どうぞ」