「本来は交わることのない男女の縁をつなげて、一つの家庭へと導く。そういう意味では、仲人は婚活の『界面活性剤』と言えますね」
「玉西さんって意外とロマンチストなんですね」
「ロマンチックなことにはずっと無縁ですけどね」
僧侶がお経を上げるように、玉西さんは「ご馳走様でした」と言って手を合わせた。
レストランを出て周囲をぶらぶらしていると、ゲーセンの騒がしい音が近づいてきた。ガラス越しに幾つもクレーンゲームが見えて、様々な景品がこれみよがしに飾られている。ふと玉西さんを見上げると、彼の視線が一点に集中していることに気付いた。その視線を辿ると、フワフワした可愛いネコのぬいぐるみがプラスチックケースの中でぶら下がっていた。
「あのネコ、ほしかったりします?」
「え、あの、実家のネコによく似ているから」
額、というか頭全体に汗をかいて玉西さんは弁解した。
「入ってみます?」
「でも、こういう所はあまり入ったことがないので……」
尻込みする玉西さんを見て、可愛いと思った。
「とにかく入りましょう。迷うのは時間の無駄ですから」
玉西さんの口癖を真似て、私は彼の背中を押した。ハゲとスーパーロングのカップルがゲーセンに突入すると、若い女の子たちがジロジロと見てきた。
私が先頭に立って、玉西さんを目当ての台まで誘導した。彼が財布から小銭を出して投入すると、クレーンゲームのクレーンが赤く光った。
操作台には丸いボタンが2つあり、それぞれ「1」と「2」と書いてあった。玉西さんが「1」のボタンを押すとクレーンがガクンと動き出し、右に進み始める。その進み具合を真剣な表情で見つめる彼の横顔が、見守る私の視界に大きく入ってきた。瞳がキラキラと澄み、鼻筋の通った輪郭は外国のコインの横顔みたいで、不覚にも美しいと思ってしまった。
「2」のボタンを押す前に、玉西さんは台の横に身を乗り出した。とりたいネコの景品とクレーンとの距離を目測するためだ。スーツを着たツルッパゲの男が、両足を広げて膝を曲げている。そばを通り過ぎた若いカップルが、彼の後ろ姿を見て声に出さない笑いを漏らした。
(私もちょっと前までだったら、同じように笑ってたのかな)
不意に視線を感じて周りを見渡すと、私たちの台から少し離れた所で、三人の女子高生らしきグループがこちらを見ているのに気付いた。私たちの後釜を狙っているらしい。一方、玉西さんは「2」のボタンを押したまま、クレーンの動きを凝視している。少ししてボタンから手を離すとクレーンは止まり、アームが開いてゆっくりと下降を始めた。標的のネコのちょうど真上に降りてきて、深く食い込む。位置は良さそうだ。やがてアームが閉じ、クレーンはゆっくりと浮上し始めた。
「いけるか!?」