小説

『楽園』西橋京佑(『桃太郎』)

 Q146は高笑いをしていた。向こうのほうで、別の門番が少しだけチラチラこっちを見ていた。
「いいか、お前の考えなんて、そういうのは、一切、関係ないんだ。俺は、お前のことを、やる。俺が、俺の意思で、ここに来た」
「桃ちゃん?喋り方、どしたの?」
 犬山は完全にビクついていた。何だよ、結局お前はいつまでも犬なんだ。
「目を見たらダメだよ。催眠術かなんかの類だよ、これ」
 猿、そんなもんに俺がかかるわけないだろ。妹だって。
「催眠術、いいですね。でも、そうじゃない、これは、僕の意思で、彼の意思なんです。彼の意思を、僕が応援しているだけだ」
 なに言ってんだ、こいつ。
「さあ、桃井さん。いいん、ですよ。あなたが、14年間貯めてきた、憎しみを、殺人犯は、鬼退治をされて、然るべきだと、あなたが何年も抱え込んで来たものは、今日で解放されて、今日から、生まれるんだ」
 どうして、こいつは?
「俺の、名前を、呼ぶな」
 どうして、こいつは?
「鬼退治、鬼ヶ島地区の、殺人犯を、殺ってしまう。何とも、本が好きそうなあなたが、考えつきそうなことですね。僕は、ここにいるぐらいなら、死んだ方がマシなんだ。救ってくださいよ、僕を」
 どうして、こいつは?
「さあ、その右の太もも。そこに入っているもの、出して、タバコは右側に咥え直して、さあ」
 どうして、こいつは?
「あなたの意思なんて、関係ないんです。あなたは気がつくんだ、その右の太ももの、ナイフを、僕に深く刺し切った時、結局あなたも、僕とおんなじなんだっていうことに」
 頭が熱くなっていた。僕は、右太もも部分に隠していたナイフを取り出す。Q146に向かって何度もナイフを振り下ろした。

 
「Q146、前に」
 そこは、灰色に染まった世界だった。周りの奴らは、みんな死んだような目をしていて、首元をさすりながらバラバラに地面に座っている。気が付いた時には、僕はここで灰色のスウェットを着させられていた。
 Q146は動かなくなって、その後すぐに僕が捕まった、らしい。捕まったその日から、僕は代わりにQ146と呼ばれるようになった。よくわからないけど、番号は有限だから空いた順に使っていくそうだ。僕じゃないQ146は、誰からQ146を継いだのだろうか。まあ、そんなことはどうだっていい。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10