山田さんの声が別の場所から聞こえたのでそちらを見てみると、山田さんは見知らぬ男子生徒と話をしていた。
「橋本が勉強してるなんて明日は雨が降るかもしれない」
「うるせー。俺だって勉強なんかしたくねえよ。ただ、今度の小テストで不合格だとしばらく部活が禁止になるんだ。ただ、全然分かんねえ。誰かに教えてもらわねえと」
「何それ。あたしに教えてもらいたいの?」
「お前俺よりも頭悪いじゃねーか、馬鹿」
「あたしにそんなこと言ってもいいのかな。せっかく心当たりあったのに」
「えっ、マジで?」
「うん。おーい片山」
知り合いと楽しそうに話していたので、邪魔をしては悪いと思い声をかけずに図書室を出ようとしていた私は、予想外のタイミングで山田さんに呼ばれた。
「最近仲良くなった片山。凄く頭が良いんだ。それに可愛いでしょ?」
私は山田さんからそのように紹介された。なんてハードルの高い紹介をする人なのだろう。
「片山、こいつは三年の橋本。昔からの知り合い、野球部でキャッチャーをしてる」
「へえ、山田の女友達か。珍しいな。よろしく片山さん」
「はい、よろしくお願いします」
私は先輩である橋本さんにお辞儀した。
その後、チャイムが鳴るまで私は橋本さんに勉強を教えることになった。橋本さんは学生生活のほとんどを部活に費やしており、本格的に受験勉強を始める前の私でも色々教えることが出来た。
「試験不合格になってもいいじゃん。部活に出れないだけなんでしょ?」
机に肘をついて山田さんがのんびりと言う。
「今年はチームが良い感じなんだよ。特にピッチャーがな。そんな状況で正捕手の俺が部活に出れないなんてことになったら監督に殺される」
橋本さんは冷房の効いた部屋の中で冷汗をかいていた。
「そうなんだ。じゃあ最後の夏だし頑張らなきゃだね」
勉強の合間に説明を受けたが、二人は幼馴染で幼いころからの知り合いらしい。山田さんはクラスの男子たちとは違う距離感を橋本さんと築いているようだった。
「お二人は付き合っているんですか?」