「だって片山、クラスでいつも一人ぼっちだったでしょ。それがかわいそうでさ。ほら、あたしってタバコ隠してもらった恩があるじゃん? だからそれ返さなくちゃって思って」
山田さんの言葉に私はショックを受けた。なんということだろう、山田さんは私なんかのために貴重な青春の時間を費やしていたのだ。
もう充分だよ、私はそう言おうとした。
「でも今は違うんだよね」
私は言葉を飲み込んだ。
「片山と話してると意外に面白いんだよ。片山はちゃんと話聞いてくれるし、意見も言ってくれるし。表面じゃなくてちゃんと会話してるって感じがする。それって他のやつと話してもないことなんだよね。だから、今はあたしが片山と話したいから話しかけてるかな。あっ、もしかして、あたしみたいなヤンキーに話しかけられるのって迷惑だった?」
「うんうん、そんなことない。山田さんに話しかけられて嬉しかったよ」
私はもの凄い勢いで首を横に振った。
「そっか、良かった」
山田さんは、私なんかの言葉で心底ホッとしたような表情を浮かべた。教室の中にいるにもかかわらず、私は泣いてしまいそうになった。
ある朝、私はいつものようにテレビで朝の占いをチェックしていた。神さまのお告げに耳を傾けるクリスチャンのようにテレビを見ていると今日のラッキーアイテムが発表された。ラッキーアイテムは赤本だった。
赤本とは、とある出版社が発行している過去問題集の通称、つまり参考書のことだ。私は大学受験を直前に控えてはいないので、まだ赤本を持ってはいない。しかし、学校の図書室にはあるはずだった。
私は午前中の授業が終わり昼食を食べおわると早速図書室へと向かった。
「初めて来たけど過ごしやすいね、図書室」
一緒に昼食を食べた山田さんは私が図書室に用があると告げると、「じゃああたしも行く」と着いてきた。低めに設定されている空調が気に入ったようだ。エアコンから一番近い席に座って冷気を体に浴びている。
赤本はカウンターの横に何冊も置かれていた。その中から一冊を手にとりページを捲る。大学入試の問題だから私には解けないと思っていたが、意外と何とかなりそうだった。一人でいる時間勉強ばかりしていたおかげで、私の学力はそれなりに高くなっていたようだ。
カウンターで借り出し手続きを済ませて山田さんの所へ戻ると、山田さんはさっきまでいた場所からいなくなっていた。
「どうしたの? 珍しいじゃん」