「だから言ったじゃん。タバコなんて吸ってないって」
「ふん、まあいい。疑われるようなことはするんじゃないぞ」
そう言うと、先生は大股で帰っていった。
「へーんだ、嫌な奴。それにしても変だなあ。どうしてなかったんだろ。ついさっきまで授業サボってここにいたのに」
山田さんは先ほどの先生と似た姿勢をとり、地面を観察し始めた。どうして吸殻が消えたのか気になるらしい。
「私が拾ってたから」
丸めたテッィシュを取りだして山田さんに見せた。
「おー、どうして拾ってくれたの?」
「えっと、それは」
どのように説明すればいいのか悩んだ。朝の占いでラッキーアイテムがタバコだったから、という理由だけで納得してもらえるとは思えない。
「ま、理由なんてどうでもいっか。感謝してるよ」
そう言って山田さんは右手を差し出してきた。一瞬、その意味が分からなかったが、握手を求められているのだと分かって慌てて私も右手を出した。
「ありがと」
そう言って山田さんはぎゅっと私の手を握った。
「うん」
誰かに面と向かってお礼を言われることが照れくさくて、私は顔を伏せてしまった。
「ところで、あんた名前なんていうの?」
山田さんは、恩人でもありクラスメートでもある私のことを、全く知らないようだった。
その日以来、私は山田さんに話しかけられることが多くなった。
「ねえ片山聞いてよ」
休憩時間になると山田さんは私の机にやってきた。そして、他愛ない話をする。私は上手く反応出来ているかどうか不安だったけれど、山田さんは満足そうにしていたのでたぶん大丈夫だろうと思った。
山田さんは私と正反対だった。見た目も、性格も。それなのにどうして山田さんは私なんかと仲良くしてくれるのだろう。ある日、私はその理由を訊ねてみた。
「最初は恩返しのつもりだった」
山田さんは、それまで楽しそうに話していた男子を追い払ってまで、私の質問に答えてくれた。