そういって、うやうやしく私の手の甲に唇で触れた。
「舞踏会へ行きますね」
返事は決まっている。私が私に感じなかったものを感じた人がいる。そのことは、今の私に勇気をくれた。醜いとばかり思っていた自分が、美しい存在に思えた。
「行きます。…でも、私はちゃんとしたドレスも仮面も持っていません」
「そんなことは問題にすらなりませんよ」
自称魔法使いが指を鳴らすと、瞬く間にチカチカと自分自身が輝き始めた。眩しさに目を閉じると、ほんのりと温かくなり、光が治まったのを感じてからそっと瞼を開いた。
スワロフスキーを散りばめたスカートが月明りで輝く。水色のドレスは少し動くだけでひらりと裾が揺れる。
「素敵…。本当に魔法使いだったんですね」
「お疑いだったとは、寂しいですねぇ」
「ごめんなさい」
「謝罪はけっこう。お行きなさい」
「はい!」
「魔法は十二時の鐘の音が止むと同時に消える。おっと、伝え忘れてしまいましたね。…フフ。まぁ、何とかなるでしょう。自分を卑下する奥ゆかしさは不要ですよ、シンデレラ」
キレイなドレスに心躍らせながら、屋根裏部屋から駆け出した。魔法使いの話を最後まで聞かずに飛び出していた。
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「私と、一曲踊っていただけませんか?」
「…はい」
「お手を」
「はい。あ、でも…」
「何か?」
「私の手はかさかさしていて…」
「働き者の手だ」
「え?」
「とても愛しい、美しい手」
「王子様…」
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よく晴れた日の朝食後は、絶好のお洗濯日和。