小説

『物語る』恵(『シンデレラ』)

「ウフフ。よろしくてよ」
「優雅なワルツの曲だこと」
「あなたの踊りもとても優雅ですよ」
「お上手だこと」
「あぁ、王子様はいつになったらお姿をお見せくださるのかしら」
「一目拝見するだけでも光栄だわ」
「そんな事言って、本心ではお妃の座を狙っているくせに」
「当然じゃない。一国のお妃よ。憧れないなんて嘘はつけないわ」
「噂だと、かなりの美男子だとか。贅沢な暮らしにイケメンの旦那様。これ以上の贅沢は無いわ」
****
「今日が最終日かぁ」
 結局私は舞踏会へ参加することはなかった。ドレスは完成したけど、お義母様たちが私を連れて行ってくれることはなかった。その代わり、気持ちを切り替えるために家事を一層取り組んだ。掃除に洗濯、繕い物など、お義母様がいない間に、今まで遣り残していたことが全て終わっちゃった。
 やることがないのなら、今夜はもう眠ろう。お義母様たちが帰宅する深夜まで起きていないと叱られてしまう。それはわかっているけど、心が重たい時は早く寝てしまいたい。
「今夜も屋根裏部屋で一人」
「え?」
「継母達に気付かれないように舞踏会へもぐりこめばいいではないですか。窓の外を未練たらしく眺めているよりよっぽどいい」
「私なんか…」
 いつも急に現れる派手な男性、もとい、自称魔法使い。今回も声がしてからその存在に気づいたけど、3回目にもなれば慣れてしまう。
「舞踏会は仮面舞踏会。会話をしなければ継母達に気付かれることは無いかと思いますよ」
「でも…」
「舞踏会終了時刻は十二時。それまでに帰宅すれば不在は気付かれない」
「それは、そうですけど…」
「場内へ庶民が入れるのはこの先ないと思いますよ」

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