「…私、人が多い賑やかな場所は苦手で」
「行ったこともないのに苦手だとわかるのですか?」
「行ったことが無いから、どうしていいのかわからないんです」
「気持ちのままに楽しめばいい」
「私なんかが楽しむなんて…恐れ多いです。外見は男性。でも、戸籍上は女性。そんな私がお城に、ましてやお妃様を選ぶ舞踏会に参加だなんて恐れ多いです」
「舞踏会は無礼講。老婆も少女も問わず国民全てに参加を許可していますよ」
「でも、私なんか…」
どうしてこの自称魔法使いは、私を舞踏会へ参加させたがるんだろう。理由に心当たりも、企みも感じない。でも、話しているうちに、だんだん自分自身がどれだけ女性として低レベルなのかがわかってくるようで、自分で自分を傷つけていた。
「またですか」
「え?」
「人は皆、見た目に惑わされる。心のままに生きればいいじゃないですか」
「でも…世の中は、王子様は私なんか」
「私なんか。私なんかが王子様に会いに行くなんて身の程知らず。私なんかがお城に入るなんておこがましい。私なんかじゃ気に入ってもらえない」
「……」
「あなたの価値を決めるのはあなたじゃない」
「え?」
「あなたが自分自身をどう思おうと、あなたに関わる者は独自の印象を抱く。そこにはあなたの意思は反映しない」
「えっと…それはどういう意味ですか?」
「私はあなたのアカ切れした働き者の手を美しいと感じている。どんな季節にも水仕事を拒まない証。私はあなたの無造作に短くした髪を美しいと感じている。表情を隠すことの無い短髪は感情を隠すことが無い素直な人間の証。私はあなたのひげが薄っすらと見える白い肌を美しいと感じる。照れて高揚した赤みを隠すことが無い」
「なっ…そんな。あの、えっと…」
「あなたは美しい」
「そんなこと…」
「王女の座に目がくらんだ強欲な美女など、あなたの美しさの前では見るも無残。私が王子だったならあなたを選びましょう、シンデレラ。どうか、私を信じてください」