小説

『物語る』恵(『シンデレラ』)

「私が何者なのか知りたいのなら、まず自分自身が自己紹介するのが筋」
「え?あの、えっと…」
「知りたいのなら自分自身をまず教えるのが筋だと申し上げているんですよ」
「いや、でも…」
 真面目な顔で話されると、こちらが間違っているように感じてしまう。でも、この状況は…
「不法侵入。そう言いたいのですか?」
 その言葉に尽きる。
「ハァ」
「な、何ですか?」
「私はあなたに今、危害を加えていますか?」
「それは、違いますけど」
「どうせ家事をこなすとき以外この汚らしくて狭い屋根裏部屋にこもっているのでしょう?」
「汚らしくて狭い屋根裏部屋ですみませんねっ」
「友達がいるようにも見えませんし、たまには継母以外との交流を楽しんだらいかがですか?」
 それとこれは違うような…気がする。でも、なぜだろう。派手な男性の言葉には相手を納得させる力があるかのよう。自分が正しいはずなのに、間違っている気持になる。
「私の存在を認識した瞬間に私を追い出すことはできた。にもかかわらず、あなたはそうしなかった。独りが寂しいと感じているのは間違いない。抗うより慣れろ、ですよ」
 派手な男性は責め立てるわけではない。だからかもしれない。不思議と派手な男性の言葉を否定しきれなかった。派手な男性の問いかけにこたえるように、私は自分についてを話し始めた。
「私の名前は、シンデレラ。本当のお母様は私を生んだときに亡くなりました。私が五歳のときにお父様より十三歳年下の女性と再婚。そんなお父様も一昨年過労で亡くなりました」
「ほぉう。それはそれは」
「…私が、私がここにいるのは、ここが私の部屋だから。家事をする時間以外、屋根裏以外の出入りはお義母様に禁止されています。通販で食材や日用品は購入できますし、基本的にこの家の敷地内から出ることはありません」
「絵に描いたようなお話ですね」
「そういう人間も実際にいるんです」

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