小説

『物語る』恵(『シンデレラ』)

「そうかい…。明日には死んじまうかもしれないばあさんのたわごとは聞きたくないって話かいっ。ケッ。これだから都会に馴染んだ息子は可愛げがない」
 初めに作り替えたのは、幸福な王子。世の中がもっと荒んでいる、ということが伝わる話にした。その次はピノキオ。願いはいつの日もかなわない、というテーマに変えた。作り替えていくうちに、私は物語の意味を見つけた。
「あーもう、わかったよ。聞くよ。はい、話の続きをどうぞ」
「お願いします」
「え?」
「人に頼むときは頭を下げんかい!」
「ハァ。はいはい。お願いします」
「フン。しょうがないね。話してやろう。昔々あるところに、たいして可愛くも綺麗でもない、年齢イコール彼氏いない歴のシンデレラと言う女の子がいました…」
私のたどり着いた物語は、シンデレラ。

「シンデレラ。シンデレラ!」
「はい、お義母様!」
「シンクに三つ葉がついているわ!」
「あ、はい」
「汚らしい。庶民丸出しの汚さよ!」
「庶民ですから」
「この私に意見するつもり!」
「三つ葉も食器の破片もさっさと片付けておきなさい!」
「はい、お義母様…」
ここはお城から少し離れた市場の近くの一軒家。もともとは私のご先祖様が住んできた家。…でも、今は義母とその連れ後の子の姉たちと一緒に生活している。昔はお父さんも一緒に住んでいたけど、今はいない。
「ハァー」
 ゴミ捨てで外へ出た時に、こっそり溜息。このくらいは許されるだろう。
「庭掃除はもう終わっているんでしょうね!」
「今すぐに!」

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