塚田君が冷たい目で新を見た。
「みんな勝手に王子王子って騒いで面白がっているだけだ。何の意味もない。僕は超ダサイ格好で持久走で一番最後になってぜーはー走っていても、そんな僕を丸ごと全部受け止めてくれる人がいてくれるならそれでいい」
「さらっと言ってくれるね、塚田君。そんなことを言ったってきみ、持久走はいつだってトップ5に入っているじゃないか」
「例えばの話だよ」
あきらめたように塚田君はなげやりな感じで座り直した。
「なんか、そうやっていたら全然王子じゃないね」
日和の言葉に「だからもとから別に王子じゃないから。そっちが勝手に騒いでいるだけだし、迷惑だ」と塚田君は疲れた顔をした。
「あ、でも、私、今の王子っぽくない塚田君の方が好き」
うっかり言ってしまって日和は慌てて口を押さえた。
「今の、そんな深い意味じゃないから、えっとだから」
「よかったな」
新が塚田君の背中をたたいた。
「王子じゃなくても好きだってさ」
「……ありがとう」
困ったように塚田君が言った。
「いえ、どういたしまして」
日和は食べ終わったおにぎりのごみをレジ袋に押し込むと立ちあがった。
「じゃあね!」
「負けるなよ、中道日和」
新がにやっと笑う。
「ふん、ひとごとだと思って。ま、負けないけど」
あ、と新が目を大きくした。
「それでこそ、中道日和だ」
軽くたたかれた肩をさする。
なんだかわかんないけど、胸の奥にぎゅうっと甘い痛みが走った。何なのこれ。どうして痛むの、なのにどこかうっとりして、何度もその痛みを味わいたいような変な気持ちだった。
教室に戻ると、日和の席に油性ペンで「キモイ」「男好き」「ブス」「死ね」と乱暴な文字で書いてあった。
「あれれ、わかりやすいねえ」