「別に王子じゃないし。普通のマンションに住んでいるし、親はサラリーマンだし、誰が王子だっつーの。正直迷惑なんだよな」
「そんなことを言ったら、新が可哀相じゃない」
「え、お、オレ?」
突然名指しされて新はうろたえた。
「あたし、知っているんだから。お高い美容院でカットしてもらって、メンズ雑誌熟読して眉の整え方とイケてる街角ポートレートをマネして、それだけでも十分痛いけど、それを上回る明るくおバカな天然キャラでカバーするという涙ぐましい努力をしてるの! 塚田くんみたいにすべて整っていてぽやっとしているだけでキャーとか言ってもらえる人とは努力の量が全然違うんだから。それ知ってまだ王子って騒がれて迷惑とか言う?」
新は手のひらを広げて自分の胸のあたりを押さえた。
「な、なんかすげえダメージくらった気がする……。なにそれ。オレって褒められてるの? それともけなされてるの?」
「いや、新、あんた立派だよ。そこまでぶれないのは見事」
「ひょっとしてほめているつもりかよ、中道。それともディスられてるの、オレ」
「ディスる? ディスるって何? 意味わかんない」
「だから、あんたさりげなく失礼なこと言ってるでしょ? 褒められてる気がしないっつーの」
「私、何か、失礼なことを言った?」
「言った」
「言っているな」
「例えばどういうところが……」
「もういい」
新は肩を落とした。
「いや、新は別に王子になりたいわけじゃないだろ?」
日和と新を見比べながら塚田君が言う。
「なりたかったよ」
「え?」
「なれるものならだれだって王子になりたいよ! キャー素敵、って言われたいよ。でも持って生まれたものがあるじゃないか。だれでもかんたんに王子になれるわけじゃい。努力しても本物にはなれない」
「いやもう王子の意味わかんないし」
「わかるだろ?男は女にモテたいしキャーキャー言われたい、ちやほやされたい。そういうことだ」
「ちやほやされて、どうなるの?」