梨花は冷たい目で日和を見た。
「おまえら二人ともさりげなく酷すぎるぞ」
新が吠えた。
「オレだって、傷つくんだからな!」
ぽかんとしたあと、日和は笑い出す。
「新って、相変わらず面白いね」
「は?」
新は大きくため息をつくと「もういいよ」と背中を向けた。
「もういい」
大きな背中がさびしそうに見えるのはあたしのせいなのかな、と思った時日和は初めて新に悪いことをしたと思った。
「日和、さっきので女子のおおかたを敵に回したね」
梨花に背中や肩を叩かれ「ええっ」となる。
「そりゃそうでしょ、うちの学校の女子半分以上は王子か新のファンなんだから」
「ファン? そんな大袈裟な」
日和は力なく笑う。まさか。まさかね。
「日和って世間知らずだよね。つーか空気読まない女」
「KYってこと?」
梨花がちちち、と人差し指を左右に振る。
「日和はKYじゃないよ。空気が読めないんじゃないもん。最初から読む気ないんだから。まあ、覚悟しときなよ。あれだけの女子の目の前で二人に恥をかかせたんだから」
「ちょっと待って。新はともかく、塚田君には何も言っていないし何もしていないから」
「そんな理屈は通じないと思うよ。まあ、がんばれ、日和」
え? え? え? 怯える間もなく梨花の言う通り日和の周囲はその時を境に冷たくとげとげしいものに変わっていった。
下駄箱はゴミ箱に、教科書は蛍光ペンで「キモい」「メガネザル」「うざい」と書かれた落書帳状態、歩けばこそこそひそひそ広がるさざ波笑い声、いやまったくわかりやすい。パターン化されつくした定番。でもけっこうしんどいね。精神的ダメージはともかく、落書きやごみの不法投棄は目で見える物損。あきらかに犯罪じゃないのか。
「こんなことして楽しいのかな。訴えてやろうかしらん」
こんなことをするような女を塚田君も新も好きにはならないよ、ばっかじゃないのとつぶやいてみても心は晴れない。
「日和、どこに行くの」