小説

『みんな誰かを好きになる』広都悠里(『はちかづきひめ』)

「ド定番!」
「なにこれ」
「中道日和、ぬけがけ!」
 一気に周りが騒がしくなり、おう?とずれた眼鏡を直しつつ顔をあげるとまぶしき正統派王子、塚田守の顔が日和の真正面にあった。まっすぐに自分を見ている大きな二重の目に吸い込まれるようにぽかんと見とれた。
「ちょっと! 何やってるの」
「塚田くん、やめてやめて」
 役得! の文字が日和の脳裏をかすめた。この場にいる女子すべての恨みを買っても逃すかこのチャンス、と差し出されたその手に恐る恐る指先を伸ばした瞬間「うっわーだっせー、こんなところですっころんでやんの」と明るい声と共にぐいんと腕を引っ張られ体が起こされた。
「ぎゃあ」
 予期せぬ出来事に遭遇した時、ひとは予想外の声が出てしまうものである。
「すんごい声」
 顔をしかめた新の顔にはっと我に返った日和はあわてて守の方を見た。
「あ、じゃ、どうも」
 きまり悪そうに差し出した手を引っ込めて困った顔のまま立ち去る守を日和は恨めしく見送った。
「新、酷い」
「え、オレ? 助けてあげたのに」
「新より塚田君の方がいいに決まっているじゃない」
「……」
 さすがの新も言葉を失う。
「ちょっと、ちょっと、いくらなんでもそれは言い過ぎじゃない?」
 梨花が日和の腕を引っ張った。
「古川くんだってそこそこモテるのに、失礼だよ」
「そこそこって……酷いな」
 新は頭をかいた。
「だって」
「だってじゃないでしょ」

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