梨花が日和の眉間のしわに人差し指をつきたてた。
「あいつ、いつからあんな感じになったのかな。いつの間に人気者になったの? 全然目立たない奴だったのに」
「お、やっかんでますね?」
「やっかむ? 私が誰の何を」
「あ。王子来た」
梨花が駆け出す。
「王子?」
再び眉間にしわを寄せる日和に「塚田守」と振り返って梨花が叫ぶ。
「塚田守って王子なの?」
「みんな言ってるよ。目の保養だって」
塚田守がなんぼのもんじゃい、と日和は腕組みするが廊下から膨れ上がってくるピンク色の囁き声やきゃああという歓喜に誘われるように女子の群れの後ろにふらふらと並んだ。
「なにこれ。マジで王子様のお出ましって感じ」
日和は背伸びをしながら前方を見た。
「きゃー、塚田君、髪切ってる」
「顔がよく見えるわー」
「前髪長めも良かったけど、これもいい」
「……日本の高校で王子とか意味わからん。日本に王子が繁殖し始めたのはハンカチ王子からだよね。ハニカミ王子が先だっけ? あの頃からやたら王子様があちこちで出現しはじめてみんな気安く王子王子って言うようになったけど本来王子は高貴な身分でそうやたらめったら気軽に……」
「うるさいよ」
「すっこんでな眼鏡女子!」
どん、と軽く押されただけなのに「何」「やめてよ」触れられることに敏感な女子高生の群れはさっと身をよじり、日和を避け、あれ、あれあれという間に日和はバランスを崩し最前列に転がり出た。
「ったあ!人をバイキンかゾンビみたいによけまくらなくても……」
べたりんと廊下にはいつくばって文句を言いながら起き上がろうとする日和の顔の先に手が差し出された。
「ぎゃーっ」