「どうってことなかった」
「え?」
梨花は体をねじって廊下を覗く。
「ほら、また告られてるじゃない、古川君。背、高いし、イケメンだし、面白いし、昔からモテモテだったんじゃないの?」
「全然」
日和はきっぱり首を横に振った。
「あいつ、偽イケメンだし」
「偽イケメン?」
「雰囲気でそれっぽく見せてるだけだよ。もともとイケメンじゃないし、背もふつうだったし。まあよくしゃべる子ではあったけど、ただのさわがしい男子で、中学の時なんて、ほら、生徒手帳に生徒のお手本見本の超ダサいイラストがあるじゃん? あんな感じだったよ」
「うっそー。マジで? 髪形おしゃれで、制服の着崩し感が素敵な感じなのに?」
「しかも古川新って名前が真逆」
「フルカワアラタ。確かに名前、真逆だわ」
ふるいのにあたらしい、ってねえ、スゴイ名前だね! 両手を叩いて騒いでいたら「ひとの名前をフルネームで叫びながら笑うって何だよ、新しいゲームかよ」と新が窓から首を突っ込んで大きな声で呼びかけた。
「あーなんでもない、なんでもない」
笑いながら手を横に振る。
「何だよ、感じ悪イな」
すいと首をひっこめて、新は行ってしまった。
「感じ悪イ、だって」
首をすくめて梨花が新を真似る。
「感じ悪いって言われたのになんでうれしそうなの?」
「えー、話しかけてもらえたらうれしいじゃん?」
「わかんない」
日和は眉間にしわを寄せる。
「なにそのブッサい顔」