梨花が後ろからのぞき込んでのんびりと言う。
「オリジナリティゼロ」
日和は低い声でつぶやいた。
「まあ、こういうことやる時点でアウトかもねえ」
「アウトって?」
聞き返す梨花に「だって、こういうことするような女子を好きになる男子、いるかなあ?」とぐるんと教室を見回した。
あざけるようなくすくす笑いが広がっていた教室の空気が一変する。
「消すの、手伝おうか?」
梨花の言葉に日和は「ううん」と首を振る。
「別にいい。このままにしておくよ」
「意地悪だなあ」
梨花が言う。
「これ書いた人にあんたが書いたんだよって見せつけるためにわざわざ残すなんて」
「まさか」
日和はわざと大きな声で言った。
「消すなんて面倒臭いじゃん。なんで私がわざわざ掃除をしてあげなくちゃならないの?」
「まあ、模様だと思えばいいか」
梨花はそう言い捨てて自分の席に座った。
最悪なんだけど、なんか幸せかも、と矛盾したことを日和は思った。なんだか泣きそう。じくじくした胸の痛みは広がって、うっとり甘い涙が出てきそう。
だけど泣いたりしたら、勘違いしたひとたちが喜ぶから涙は見せてやらない。そう思ったところで日和は気付く。
あたしって、けっこう負けず嫌いなんだな。
じゃあどうせなら、ついでに勝っちゃおうか。勝つ方法なら知っている。それはうんと簡単だ。人を憎むのはその人を不幸にしたいからなのだから、こっちが幸せになれば勝ちなのだ。
鼻歌の一つも歌ってるんるん明るく生きてやろうじゃないか。
なんだおまえ、心配して来てみたのに全然元気じゃん、と新が呆れた顔をした。
「そこ、山田の席」
「知らねーよ」