以降、しばしば女はきりこに会いにくる。その中で女がきりこにしか見えていないことも知った。することは変わらず、いくつか質問をするのみ。きりこもはじめは緊張していたが、女は積極的に触れてこようとはしない。だが、足を踏み外して倒れそうになったときは髪で反対方向に引っぱって体勢を立て直し、山中に落とし物をしたときはわざわざ拾って届けにきた。きりこがいじめられそうになると、ほどほどの、しかし少年にしたような強烈な仕置きをした。
ひたすらにきりこを見守っている。いつしか数個の質問は会話に変わり、単調な会話は談笑に変化した。
しばらく経ち、女はよく自分たち二人は似ていると口にした。きりこは現在でも、いまいち賛同できずにいる。なにもかもが違いすぎて、自分と同じものがあると考えるのは、恐れ多いと思ってしまう。しかし、邪見にはできなかった。きりこにとって、女は姉のような存在にまでなっていたのだ。
女は身分を明かさず、また名乗りもしなかった。だからきりこは尊い身分だと結論づけるしかなく、羨望と憧憬を込めて髪長と呼んだ。
「最初からこんなことを考えてたわけじゃない」
髪長がしたようにきりこも息を吐く。
「ご先祖さまは都に住んでいたって聞いたの。じゃあどうしてあたしはこんなところにいるんだろうって思ったら、落ち着かない。おかしいよね、もうずっと前のことなのに。母さんだってこの山で生まれたのに。見たこともない都に憧れて。都では髪が長いのは普通のことなんでしょう。だから……あたしは、はじめは髪だけがほしかったのに、いつからこんなに欲ばりになったのかな」
耳の後ろへ手を伸ばす。ざくざくの髪の感触が、きりこ自身をいつもぶざまに思わせる。そばで短く鳴くにわとりの声、風に揺れ葉と葉が擦れる音、それらを突き破るように髪長は声を上げた。「きりこ」普段のつつましやかな音色とは異なっていた。
「どうしてわたしが髪を伸ばしているか分かりますか」
髪長の髪は、出会ったときより伸びているように感じていたが、本当はどうなのだろう。きりこは疑問を口には出さず、首を真横に振る。
「わたしの一族は、ずっと昔、物の怪を退治する術を有していました。そしてそれを使うための霊力も。その霊力というのは髪の一本一本毛先まで満ちていました。霊力に際限がないほど、強い術を持っていたのです。つまり、髪が多いだけ、長いだけ、霊力の量が増えるのです」
物の怪。霊力。聞き慣れない言葉に戸惑うきりこの前に髪長は膝をつき、まっすぐに瞳を覗きこんだ。
「今はそれが自由に使えない。もう少しの辛抱です。きりこ、思いを抱き続けてください。そうすれば、どんな願いも叶いますから」