小説

『人魚姫裁判』柘榴木昴 (『閻魔大王』『人魚姫』他)

「では、評議会を閉会する」かんかんかんと木槌を鳴らす。閻魔が席を立って扉を開き、退出を促す。
「まさか、天国にも地獄にもいかないなんて。こんなことあるんですわね」
「ふふふ。恋は天国も地獄も兼ね備えている。丁度良い結論ではないか」
「恋かあ。不合理よね」
「……マッチ売りちゃん見てると、天国も退屈そうですわね」
 みんな続々と退出していく。あるものは天国に、あるものは地獄に。天国と地獄の分かれ道。だが分かれ道は常に三本ある。そう、来た道があるのだ。
「ぐるる……こんな評決、有りえるのか」

 閻魔が不敵に笑いながら答えた。
「なんだって『ありえる』さ。人間は可能性に満ちているからな」
 Kが一人、座ったまま資料を見ながらぽつりとつぶやく。
「……そういえば、人魚姫の名前はなんというのだろう」
 他人に興味を示すのはめずらしい。人魚姫の名前は、きっと希望にあふれる素敵な名前よ、と魔法使いが肩を叩いて退出した。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10