小説

『ブラックサイドカンパニー』小泉麦(『桃太郎』『金太郎』『浦島太郎』)

「……中庸」
「グレーサイドカンパニーを作りましょう」

 
 ブラックサイドカンパニーとホワイトサイドカンパニーは、新たにグレーサイドカンパニーとして生まれ変わった。正義でも悪でもない、今まで脇役端役と位置づけられていた役回りを請け負う会社だ。ただの傍観者としてその場を客観視するケースもあれば、キーパーソン的な役割でその場の中立を保ち、折衷案を提言するケースもある。これはもともと早乙女の部署が行っていた業務に近いものがあり、彼女は会社に留まることを決意したようだった。
 爺さん婆さんは昔ながらの知恵を生かすことが増えたし、もともと悪役イメージのない熊も活躍する場面が増えた。新たに犬部署や鳥(主に雉)部署も新設された。
 桃田は社長という肩書きをはずし、積極的に外へ出るようになった。もともと年齢を考えれば、一番時代に追いつける感性を持っている。ここにきて先代から引きついだ性分も開花してきたのか、穏やかな物言いや人情的な判断も覚え、今や引く手あまたの状態である。
 大団円。これぞ昔話でいうところの、めでたしめでたし、である。が、
「どうして鬼じゃだめなんですか!」
 鬼部署には鬼瓦の叫びが虚しくこだまする。鬼の見た目が怖い、という理由から、鬼部署だけはなかなか軌道に乗れずにいる。鬼イコール悪役という固定観念を払拭するのは難しい。
 鬼だって優しいんだぞ! と渡る世間に鬼はありを猛アピールする鬼瓦の奮闘ぶりは続く。

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