小説

『人形姫』原口りさこ(『人魚のひいさま』)

 そう言って慌ただしく帰って行きました。

 部屋に戻ると、ハル君のお母さんは、手に乗せた人形をしばらく見つめて居ました。やがて、人形の髪をそっととかすと、
「最近ずっと、こうしてあげられなくてごめんね。でも、もうすぐ、あなたも遊べるようになるかもね。」
そう言って、お人形を棚へと戻しました。
 そして、ハル君の方へと振り返って、こう言いました。
「ハル。あなたも、もっとしっかりしないとね。春にはお兄ちゃんになるのだから。」

 お人形は、お母さんのお腹に、たしかにお姫様を見ました。

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