小説

『かえるのうたが』広瀬厚氏(『かえるの合唱』)

 季節は夏から秋、そして冬へと移っていった。
 年も明け、しばらくたったある寒い日のこと、夕方前からちらりちらりと雪が降り始めた。
 仕事を終え、列車に乗り家路をたどる私が、列車を降り駅を出ると、しんしんと降る雪に郊外はすっかり白く化粧されていた。幸い天気予報で雪のおそれを知り、コートをはおりスノーシューズをはいて家を出た私は、朝来た道を逆に家へ向かい歩いた。
 雪の降る夜は静かであった。殊更私達の暮らす家は外れに建つゆえ、近づくにつれ静けさは増していった。我が家の明かりが目につくころ、辺りはすっかり森閑としていた。そんななか奇妙な音が私の耳に聞こえてきた。
 しゃがれたカエルの鳴き声のような音である。よく聞いてみると(かえるのうたが)と、かえるの合唱、のメロディーを奏でている。妙に音程があいまいなところが不気味だ。(クヮ クヮ クヮ クヮ)のところなど、必死になにかを訴えているようだ。
 もしや夏に全滅させたおたまじゃくしの怨念だろうか。私はゾッと気味を悪くさせた。
 私が家に帰るとホルンのマウスピースだけを使って、息子が一生懸命に、かえるの合唱、を吹いていた。楽器を吹くための基礎練習だそうである。息子は、今度小学校の鼓笛隊に入るのだと、私に誇らしげに語った。

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