小説

『冷蔵庫の中の女』洗い熊Q(『雪女』)

 身が強ばる恐怖。普通ならそうするでしょう。でもそれを払い退けたい一心で夢中で私は手を出したんです。
 それは偶々、偶然。押さえ込んでいた男の鼻先に当たる。
 痛みと驚きで狼狽する見えた男の顔。
 でも、その眼は一瞬で変わるんです。
 屈辱。叩かれ怯んだ事を恥に感じたんでしょう。後の彼の眼には怒りしかありませんでした。
 掴むのを私の手から首へ。めい一杯の力で首を締め上げてきたんです。
 嗚咽のような悲鳴を上げる私。
 それが彼の憎悪を炎上させました。
 首を掴んだまま床に頭を叩きつけ打ち揺らす。
 ごつんごつん、ごつんごつんって。
 人の頭って、こんなにも音を打ち鳴らすんだ。
 ごつんごつん、ごつんごつん。
 その内に私は悲鳴を止め、手足も動かすのを止め。
 呼吸も止めました。
 ぐったりとして、白目を剥く私を見て。
 狼狽える男二人の姿は絵に描いたよう。
 慌てふためく二人がした事は、私を助けようとではなく、何処に捨てようかの相談でした。
 一人が思い出すんです。
 山奥に捨ててあった冷蔵庫の事を。
 この時期に入れて置けば、雪に隠れ人目に付かない。雪解けなれば何処へと流される。
 そうしよう、そうするしかない。
 その後の二人は早かった。
 もう動けないのに私の両手、両足をテープでぐるぐる巻に縛って。
 私のコートで隠すように包んで、車に乗せ。
 そして三本杉側に捨ててあった冷蔵庫に、私を押し込んで逃げたんです。
 だから私。
 まだその冷蔵庫の中にいるんです。

 
 息を呑んだ、彼女の話に。

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