小説

『冷蔵庫の中の女』洗い熊Q(『雪女』)

 男二人は電話する僕をちら見し、彼女はだるまで暖炉の前から身動きしていない。
「――車の方は難しいだろうなぁ。除雪作業がそっちまで回るかどうか……街道の方にみんな行っているからな」
「下の方もそんなに酷いんだ」
「――こんな事になるんならあの冷蔵庫、さっさと回収しておくんだったなぁ」
「冷蔵庫?」
 ふっと部屋の空気が張りつめた感覚。それに思わず返り見る。
 僕の話に反応して男性二人がこそこそと話している姿が垣間見えた。
「――三本杉の辺り、緩い崖下に不法投棄されてたんだよ。小さめの冷蔵庫が。そのまま放置していると雪解けで下流まで流されるかもなと思ってたんだが……」
「ぎりぎり車で行ける所だね。気がつかなかったな」
「――まあしょうがない。取り敢えず、そっちが平気ならいいや……何かあったら連絡よこせ」
 そう言って叔父はぷっつりと電話を切った。心配と言ってた割にあっさりとだ。

 吹雪は静まる気配はない。移動しようにも危ない様相。
 男二人も落ちついた様子。男だけの中に一人いる彼女は逆に落ち着かないだろう。
 個室の方に行って貰った方がいいか。そう思って僕は、彼女の傍らに近づき屈み込んで囁くように喋りかけた。
「そろそろ個室の方に行く? 部屋の方は暖まっているだろうから……」
 その僕の声に反応した様、彼女の頭がくっと上目に動いて見えた瞬間だった。
 ぱっと――室内の明かりが落ちた。
 えっ? 驚いて上を見れば、部屋は暖炉の朧気な赤みだけ照らされている。
 薄暗く、薪の弾ける音だけが響く室内。静かに彼女の声が響いた。
「私の話、少し聞いていただけますか?」
 透明感のある綺麗な声。囁かれたような優しい音。だがはっきり、そしてしっかりと聞こえていた。
「あっ……えっと何かな? 何でも聞くよ」と初めて聴いた彼女の声に戸惑い、部屋の明かりが消えた訳など考える前に僕は返した。
 彼女は静かに頷き、そして語り始める。

 
 私は数人の同世代の友人たちと、そしてその友人の知り合いと共に遊んでいました。

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