思わぬ来訪者を受けて僕は急いで個室の準備を始めた。
寝るに不自由はしないが彼女の為に部屋を暖めて置かなければ。
女性と言うことで多少なりとも僕は気分が浮かれていたのかも。今、考えると。
そしてせわしく支度をしている僕の耳に、玄関口からまた新たな声が聞こえて来たのに気づいた。
「……すいませ~ん……すいませ~ん」
ドン、ドンと。扉を叩く音も聞こえた。男性の声だ。
慌てて玄関へと向かい開ける間も無く声を掛ける。
「どうされましたか? 何かご用ですか?」
ぐっと引き開いて見た扉の外。吹雪いて舞う雪の中に男性二人が震えるように両手を組んで立っていたのだ。
「すいません! 車が立ち往生してしまって。助けて貰えませんかっ?」
手前にいた赤いアウターを着た男が、その場で足踏みをしながら懇願するように言った。その背後に黒いブルゾンのフードを深々と被る男。彼の無精髭が薄らと白くなりながら震えている。
「とにかく中へどうぞ。ここじゃ何なで、中で暖まって」と僕は彼らの姿を見て躊躇無く中へ引き入れた。
「ありがとうございますっ! 助かりますっ!」
笑う赤い服の男。笑顔は人懐っこく、悪い印象を受けなかった。黒い服の男は黙ったまま小さく頷いて礼をしている。
家の中に引き入れて背中が雪で真っ白な彼らの姿を見る。その瞬間は不思議には思わなかった。
この吹雪、この前の山道。頂付近まで車で登っていける道だが、深い雪となれば大きな車でも進む事が困難。立ち往生したという彼らの話はよく起こる事だ。
――だが二人の服装を落ち着いて見て不審に感じた。
アウターは決して薄いものではない。しかしスキーや、ましてや登山に来た格好ではない。
車で来たとはいえ軽装すぎる。
その怪訝な顔を出さずに僕は彼らに伺った。
「車は何処にあるんですか? 全く動けない?」
「ええ……この小屋のすぐ近くの道で。タイヤがハマってしまって」と赤服の男は参ったという顔をし身体の雪を落としながら言った。
「ああ。そこの道で動けないようだと、救助の車も来れないかも知れないですね……一応、連絡は出来ますけど、除雪が始まらないとどうにもならないかも」
「そうすっか……参ったな……」