生々しく語る話。淀みのない口調でしっかりと、部屋の隅まで届く透き通る声で。
そして直ぐに察しがつく。
話の男二人がここにいる事を。
思わず振り向きそうになる僕。
だがその直前に男の叫び声が上がっていた。
「お前がなんだここにいるんだぁー!」
怒号に驚き振り向けば、黒服の男が叫びながら近場にあった木彫の置物を振り上げて向かって来ていた。
襲って来た事に怯み、腰砕けのように背後に倒れ込んでしまう自分。向かう先が彼女だと分かりながらも防ぐ行為を出来ず、殴られそうなるのを目で追うことしかできない。
両の手で振り上げた彫刻。勢いそのままに男は毛布にくるまった彼女の頭めがけ振り下ろした。
――どすんっ!
鈍い音。砕け落ちる様の彼女。
床に倒れ広がる毛布の間から――ばさりと広がったのは雪の固まり。
「……えっ?」
彼女の姿が消え、男が殴り倒したのは雪の固まりだった。
床に広がり、暖炉の照りで赤く見える雪を呆然と見つめていると、ふいに室内の照明が点いた。
漫然と明かりの戻った部屋を見回す。襲ってきた男も呆然と立ち尽くしたままだ。
「おい……?」と僕は男に声を掛けた。微動だにしない彼が気になった。
だが声に反応せず、青ざめた顔の男。瞬きもしない。凍り付いたような彼は、前のめりに、大きな音と共に床に倒れ込んでしまった。
目を剥き出しのまま床で顔を潰す男。慌てて近づき肩に触れた。
触れた瞬間に驚き手を離した。
――氷の様に冷たい。
青ざめたのではない、男の顔からは生気が消え青白くなったと悟った。
「……死んでる」
思わずに呟いていた。
確かめる必要もない。本当に凍ってしまった様に微動だにしない、瞬きもしない。そして息もしていない。
状況に絶句し固まる自分。それが解けたのは、もう一人の男の悲鳴だった。
「うわ……うわああぁぁ!」
声に驚いて振り返った時には、赤い服の男は玄関の扉を開けて外へ飛び出していった時だった。