そして小さな羽音がふたつ、細い葉をゆらし、黒い黒い空へと消えたのでした。
金之助と三郎が飛び立ってから、幾度も夜が過ぎました。蛍たちは、ふたりの帰りを待って、じっと身をひそめていました。それでも、何匹かは人に見つかり、踏みつぶされてしまいました。蛍たちは、美しくないと人に謗られた声で泣きながら、男の子の目の光を想って空を仰ぎました。あの優しい光を想うだけで、何にでも耐えられるような気がしました。今まで誰にも認められることのなかった己の誇りを、初めて映してくれたその目には、それだけの遙かな力があったのでした。
何度月が昇り、そして沈んだでしょう。
金之助と三郎が帰ってきました。
死にそうな姿で帰ってきはしないかと心配していたのですが、ふたりは出発のときよりも美しくなっていました。
「さあ、みんな。おいで」
金之助は、棒を持っていました。皆は、何だろうと思いながら集まりました。まだ太陽の昇っていた頃でしたから、人には見つからぬように十分注意しながら。
「よい、よい、よい」
金之助は、そう言って棒を三回振りました。
けれど、何も起こりません。皆がきょとんとしていると、となりの三郎がくすりと笑って、「我らが夜の時になればわかりますよ」と言いました。
蛍たちは、狐につままれたような気分で夜を待ちました。
ゆっくりと太陽が傾き、一番星が出た薄明の頃、あの男の子が川にやって来ました。蛍たちはうれしくてうれしくて、男の子のそばに集まりました。男の子は、唇を噛みしめて、川を見ていました。その目は暗く冷たくて、蛍たちはおどろきました。
「…ああ。蛍」
ようやく蛍に気づいた男の子は、とつぜんぱっと目を見開きました。その目を見た蛍たちは、そこにゆらゆらと跳ぶ無数の光に初めて気がつきました。
「わかりましたか?」
ふふふ、と三郎が微笑みます。
「さあさあ、まだ来ていないものはどんどんおいで。ほら、よい、よい、よい」
金之助が、棒を振ります。