あと二日。それはあまりに長かった。食事はどうにか我慢できるかもしれないが、水分をとらなくても大丈夫だろうか。それにトイレはどうすればいいのか。考えれば考えるほど、がんじがらめに縛られていくような気がした。
何度も深呼吸を繰り返しては、体を動かそうと試みる。何十回も同じことを試してあきらめかけたとき、握りしめていたスマートフォンが小刻みに振動した。
取引先からの電話だった。
「まだ出社されていないと聞いたもので……」
心配しているような口調だが、実際には不在を責めているに等しい。別の打ち合わせで自宅から客先へ直行したのだが、社内でそのことが共有できていなかったようだと適当なことを伝えた。間違っても、寝坊したなどとは言えない。
電話の用件は午後のプレゼンに関することで、待ち合わせ時間を少し早めて、どこかで事前に擦り合わせをしておきたいということだった。
「大丈夫ですよね?」
こちらが下請けなのだから、無理だなどと言えるはずがない。念のため待ち合わせの時間を復唱して、電話を切った。そこではじめて、自分の体が動いていることに気がついた。
一度体を起こしてベッドから出てしまえば、後はいつもの通りに支度を済ませるだけだった。特に不調を感じるわけでもなく、むしろ頭は冴えている。だるさは残っていたが、これはいつものことだ。結局その日は、深夜一時過ぎに自宅に戻るまで何事もなく終わった。
翌日も同じように、ベッドから抜け出ることができなかった。電話がかかってきたときだけ、金縛りが解けたように体が動く。会社に行くことを体が拒んでいるのだと思ったが、土曜の朝も、やはり体は動かなかった。せっかくの休日なのに、ベッドの上で悶々と過ごした。ようやく解放されたのは、午後の二時を過ぎてからだった。
夕方、約束通り茜がやってきた。付き合い始めて半年になる。ここ二カ月ほどはほとんど土日の休みを取れなかったため、進の健康を気遣って土曜の夜に手料理を持って訪ねてくるのが約束事のようになっていた。
「大丈夫? 今日はゆっくりできたの」
散らかった部屋を甲斐甲斐しく整理しながら、茜が言う。年齢は向こうの方が三つ下だが、世話好きなせいか口調もどこか年上じみている。
「二時過ぎまで寝てたよ。寝過ぎたくらいだ」
「寝られるときにちゃんと寝ておいたほうがいいわよ。明日も休めるんでしょう?」
黙ってうなずくと、じゃあ今日は泊まっていくねと言った。体は気怠いくせに、その言葉を聞いたとたんに性欲が頭をもたげる。まだまだ健康ってことだと、自分に言い聞かせた。