小説

『Cinderella shoes』植木天洋(『シンデレラ』)

 そう言って手で示された先を見ると、縁の部分が段々に広がってかなり派手な海洋生物のようになったパンプスが、サイズ違いで置いてあった。
 どうです、すばらしい靴でしょう? というデザイナーの声が聞こえてきそうな気がしたけれど、あまりに突飛すぎて、パンプスというよりオブジェのように見えた。
 オブジェとしては面白いんだけど、履き物としてはちょっと……。
「あ、いいです」
 この場合の〈いい〉は〈いらないです〉の短縮形だ。きっぱり断るのはやはり苦手だ。相手が善意に満ちていると、余計にだ。
 いい靴が見つからない。
 義母を待たせている。
 両方の焦りとプレッシャーが胃袋をぐぅと握りしめる。特に後者。
 さすがにまずいだろうと思って、義母が待つレストランへ走った。
 義母は廊下の窓際に席をとって、ワインを飲んでいた。ボトルは半分ほど空いていて、食事にはあまり手がつけられていない。
 〈完全飲酒〉モードだ。
 ラッキー、と言葉にならず心が跳ねる。
 義母はかなりの酒好きだ。晩酌は欠かさないし、休みの日は昼間からゆっくりと楽しんでいる。酒癖は陽気になる方で、面倒なことにはならない。
 お酒をのんでいるなら、多少待たせてしまっても機嫌を損ねられずにすむ。本当に〈多少〉なので、もちろん〈多少〉機嫌を悪くされる可能性は十分に残っているのだけれど。
 とにかく義母に声をかけて「ああ、いいわよ」という言葉をいただいて、心底ほっとした。それからレストランを出ると、走って靴探しに戻った。
 同じところを角度を変えて体勢を変えてのぞき込み、靴や飾りを持ち上げてまで探す。
 しばらくそうやって探すパターンが決まってきた――色々やってみた結果それ以上探す方法がなくなってしまった――ので、絶望が少し見えてきた。
 ない。これだけさがしてないのなら、仕方がないのだろう、あきらめた方がいいのでは?

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