小説

『Cinderella shoes』植木天洋(『シンデレラ』)

 二人で買い物にいくからと、レストランに義母を残してきたのだ。「私はここで休んでいるから」と言って送り出してくれたけれど、義母は自他共に認めるせっかちで短気な性格だ。気性も激しい。そんな義母を、イライラさせたくない。
 そう思うと余計に焦る。厭な汗が頭皮を不快にする。
 背伸びをしても、腰を折っても、しゃがみこんで這い蹲るようにしても、見つからない。
 どんどん焦る。でもどうしても欲しい。
 何かの間違いでメンズフロアにいってしまったのでは? メンズフロアでサイズの大きな靴を眺めながら、強いゴムと皮の匂いに少し気分を悪くする。
 やっぱり見つからない。けれど、これだけさがしてないということは、〈ありえないこと〉が起きているのだ。だから突拍子もない考えが答えを導き出すことがある。今回もそうであって欲しかった。
 メンズフロアとレディスフロアを言ったり来たりして、危うく関係のないフロアに降りてしまいそうになりながら、結局レディスフロアの唯一帽子が売られているコーナーの前で茫然とした。
 これだけして、どうして見つからないのだろう? 混乱してきた。
 本当にもう、デパートとかファッションビルとかは、どうしてこうややこしくて、そのくせどの階も同じように作ってあるのだろう。いや、同じように作ってあるからややこしいのか。
 うっかり本屋やフィギュアコーナーなどに迷い込みながら、あわててシューズコーナーに戻ってくる。
 なかなか欲しい本があって三冊ほど思わず抱きしめてしまったけれど、今は赤のヒールブーツを探さなきゃ。
 そういえば彼はどこにいってしまったのだろう?
 なんだか同じところをぐるぐると回っているだけのように思えてきた。実際、そうだった。
「見つかった?」
 彼が少々困り顔でやってくる。彼の方にも収穫はなかったようだ。
「なかったー」
「他の探そうか」
 二度目の提案。赤いエナメルブーツを心に残して、次の候補を探すことにした。
「これなんかどう?」
 貝の柄が入った縁の長いパンプス。
 最初の「ショートブーツ」という希望からははずれていたけれど、珍しさから興味をもった。
「これはシリーズもので、こちらのデザインもあります」

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