小説

『Cinderella shoes』植木天洋(『シンデレラ』)

「ちょっと、みあたらないみたいなんですが……、申し訳ありません」
 本当に申し訳なさそうに深々と頭を下げられて、なんだかこちらの方まで申し訳なくなってしまう。
「いえ、ありがとうございます。別のを探してみます」
「はい、ありがとうございます、本当に申し訳ありません」
 なんだかひどく困らせてしまったという罪悪感まで感じてしまう、萎縮の仕方だった。こちらもお手数をおかけして……、という気持ちがあるので、ますます申し訳ない気持ちになる。
 さっと見つかったら良かったのにな。
 さっきまであった靴がどうしてすぐなくなってしまったのだろう? あれだけ目立つデザインなら、その辺にポロリとあったらすぐに目に付くはずだ。
「ないね」
 彼と合流して、そう言い合った。
 ないならないで別のブーツを探せばいいものを、ないとなると余計に欲しくなるのが人間の不思議でやっかいなところだ。
「もう少し探してみる」
「別のを探すよ?」
「うん、でも。あれ気に入ったから」
「そう」
 彼はそう言って、一緒に探してくれる。
 誰かが試着をして、どこか隙間に雑に詰め込んだりしたのかもしれない。靴なんかあるはずのない棚の下や隙間までのぞき込みながら、赤いエナメルブーツを探す。
 こうなると、執念としたいいようがない。
 一度そういう状態になると、あきらめることが難しくなってしまう。それどころか、見つからないとさらに執着してしまう。
 私の赤いエナメルブーツ。
 持って行っただろう、隠しただろう誰かのことを思って、恨めしくなる。
 あの時、迷わず手にしたままレジに向かっていれば……。
 悔しくてしょうがない。
 それからハッと気づいて、焦った。

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