小説

『Cinderella shoes』植木天洋(『シンデレラ』)

 たぶんスタッフの香水とかが混ざっているのかもしれないけれど、とにかくなんとも言えないいい匂いがするのだ。
 素材の匂いも、硬質なものになる。もちろんゴムっぽいのも混ざるけれど、見渡すと全体的にキラキラ、ピカピカと輝いて、宝石がずらりと並んでいる気分になる。
 什器も靴も、輝いている。女はどうしてこう、キラキラしたものに弱いのだろう。
 胸がうきうきとしてきて、ひとつひとつ眺めて回る。彼はすっといなくなって、すぐに私の希望の靴を探しにいった。彼はどんなに離れてもすぐに私を見つけて戻ってくる。私が場所を移動していてもだ。だから安心してぶらぶらと靴を見て回った。
 しばらくして彼が持ってきたのは、真っ赤なエナメルのショートブーツだった。
 色の派手さにも驚いたけれど、もっとも特徴的だったのはつま先だった。
 基本的にはポインテッド・トゥなのだけれど、そのとがっているべき先端が少し膨らんでいて、まるで平たいおたまじゃくしの本体のようになっている。
「ちょっとこれは……」
 完全なポインテッド・トゥなら、色も好きだしエナメルという普段選ばない素材も気に入った。ベルトがついているのもいい。ヒールの高さも丁度いい。
 でもどうしても、つま先のデザインが気になった。
「これ、変じゃない?」
「いいから」
 そういってしゃがみ込むと、彼はテキパキと試着させてくれる。
 履き心地は、良い。ヒールのおかげで足もすらりと長く見える。赤のエナメルというのもラフなスタイルが多い私のコーディネートの中でいいアクセントになるだろう。
 でも、どうしてもつま先が気になる。
「なんかこれがね」
「これがいいんじゃん」
 彼は自信満々だ。特徴的なデザインのものを選んでは次々に私に〈似合わせていった〉彼だけれど、さすがに、これは……。
「うーん」

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